近年、企業では「従業員の健康づくり」が重要な経営課題として注目されるようになってきました。
少子高齢化による労働人口の減少や、生産性の向上、人材確保の観点から、健康経営に取り組む企業は年々増加しています。
その中でも、従業員のスポーツ活動を積極的に支援する企業を国が認定する制度が「スポーツエールカンパニー」の認定制度です。
スポーツエールカンパニーの認定は、単なる福利厚生の一環にとどまらず、企業価値の向上、採用力強化、生産性向上など、多くのメリットをもたらすとして、企業の担当者にも広く知られるようになってきました。
最近は、知名度が大きく向上しています。
本記事では、スポーツエールカンパニーの概要、認定基準、メリットなどについて、分かりやすく詳しく解説します。
スポーツエールカンパニーとは?

スポーツエールカンパニーとは、従業員・大学生などの健康増進のためにスポーツ活動の実施等に向けた積極的な取組を行ってる団体のことです。
スポーツ庁が、毎年度、認定しています(担当課:スポーツ庁健康スポーツ課)。
2017年にスポーツ庁によって創設され、企業が従業員のスポーツ参加を促進することで、国民全体の健康増進とスポーツ実施率の向上を目指すことを目的としています。
認定を受けた企業は、「スポーツエールカンパニー」として公表され、企業の社会的評価の向上にもつながります。
制度創設の背景
スポーツエールカンパニーの認定制度が創設された背景には、日本社会における運動不足の問題があります。
現代の日本では、デスクワークの増加や生活様式の変化により、運動不足が深刻な問題となっています。
特に働く世代では、仕事の忙しさから運動習慣がない人が多いということは、データからも明らかになっています。
運動不足は、
- 肥満
- 糖尿病
- 高血圧
- 心疾患
- メンタルヘルス不調
などの原因となり、結果として企業の生産性低下や医療費増加につながります。
こうした課題を解決するため、企業単位でスポーツ活動を推進し、従業員の健康づくりを支援することを目的として、スポーツエールカンパニーの認定制度が設けられました。
スポーツエールカンパニーの認定基準

スポーツエールカンパニーに認定されるためには、従業員のスポーツ活動を推進する具体的な取り組みを実施している必要があります。
業務として力仕事を行うというだけでは、スポーツエールカンパニーに認定されませんので、注意が必要です。
また、従業員のスポーツ観戦を支援する取り組みや、スポーツ団体やアスリート大会を支援している等の取り組みについても、対象にはなりません
ここからは、スポーツエールカンパニーの具体的な認定基準(申請対象・認定要件)を、公開情報をもとに、説明していきます。
申請対象
スポーツエールカンパニーの申請対象は、次の通りとなっています。
下記に該当しない場合は、申請できません。
国内に本社又は事業所が所在し、本制度に係る申請書提出時に、Sport in Life コンソーシアムに加盟申請をしている団体を対象とします。
Sport in Lifeホームページより
本制度における「団体」とは、具体的には以下のとおりです。
・株式会社、有限会社、合名・合資・合同会社
・国の機関、地方公共団体、独立行政法人、国立大学法人、公立大学法人
・その他の設立登記法人等(一般社団法人、一般財団法人、公益社団法人、公益財団法人、特定非営利活動法人、学校法人、医療法人、社会福祉法人等)
Sports in Lifeコンソーシアムには、「Sport in Life」(生活の中にスポーツを)の趣旨に賛同して、コンソーシアム加盟の意思を示した団体が加盟することができます。
認定要件
続いて、認定要件は次の通りとなっています。
単にスポーツを推進しているだけでは、認定されない場合もありますので、下記条件に合致しているか、確認してから、申請するようにしてください。
従業員や大学生等が行うスポーツ活動に対する支援や促進に向けた取組を実施している団体であり、その取組及び団体が以下の(1)~(5)を全て満たす必要があります。
(1)取組の対象が特定の従業員や大学生等にとどまらず、団体、事業所等全体で推進している取組であること
(2)経営者等の理解を得て、団体、事業所等内部の取組が明確化されていること
(3)取組が団体、事業所等内部において周知されており、取組実績があること
(4)実施内容、導入手順、運用方法等の公表が可能であること
(5)暴力団及び代表者、役員、使用人その他の従業員若しくは構成員に暴力団員等に該当する者がいないことなお、重大または悪質な法令違反、公序良俗に反する行為等、社会通念上、認定にふさわしくない団体であると判断された場合は、(1)~(5)の条件を満たしていても、認定を受けられない場合があります。
Sport in Lifeホームページより
従業員が実際に参加でき、継続的に実施されている「実効性のある健康・スポーツ推進の取り組み」であることが大切な点といえます。
認定までの流れ
スポーツエールカンパニーの認定までの流れは、次の通りとなっています。
- Sport in Lifeコンソーシアムへの加盟
生活の中に自然とスポーツが取り込まれる(Sport in Life)の取り組みを目指している団体が対象です。 - スポーツエールカンパニーへ申請
スポーツ庁ホームページから申請をします。申請期間は、例年、9月~11月ごろとなっています。 - スポーツエールカンパニー認定
認定されると、スポーツ庁ホームページで企業名が掲載されたり、認定マークを利用できたりします。
スポーツエールカンパニーのメリット

スポーツエールカンパニーの認定を受けることは、単に運動を推進している企業として評価されるだけでなく、企業経営全体において、下記のような、多くのメリットをもたらします。
- 従業員の健康増進
- 生産性の向上
- メンタルヘルスの改善と職場環境の向上
- 採用力の向上と人材確保
- 企業ブランドと社会的評価の向上

「健康経営」の観点からも、スポーツ推進の取り組みは、重要な経営施策の一つといえます。詳しく見ていきます。
従業員の健康増進
スポーツエールカンパニー認定の最も直接的なメリットは、従業員の健康状態の改善です。
日常的に運動する機会が増えることで、生活習慣病の予防や体力の向上が期待できます。
例えば、ウォーキングやストレッチ、体操などの軽度な運動であっても、継続することで血流改善や基礎体力の向上につながり、肩こりや腰痛の予防、疲労回復の促進などの効果が期待できます。
また、生活習慣病の発症リスクが低下することが知られており、結果として医療費の抑制にもつながります。
健康経営の観点では、従業員の疾病予防は重要な投資であり、長期的に見れば企業の負担軽減にも寄与します。
生産性の向上
運動習慣は、従業員の業務パフォーマンスの向上にも大きく貢献します。
適度な運動は脳の血流を促進し、集中力や注意力を高める効果があります。
また、身体機能が向上することで疲れにくくなり、長時間の業務でも高いパフォーマンスを維持しやすくなります。
健康経営では、「プレゼンティーイズム(出勤しているが体調不良で生産性が低下している状態)」の改善が重要な課題とされていますが、運動習慣の定着はこの問題の解決にも有効です。
体調が良好な従業員は判断力や作業効率も高く、結果として組織全体の生産性向上につながります。
企業にとって、従業員の生産性向上は業績向上に直結するため、スポーツ推進の取り組みは非常に有効な経営投資だといえます。
メンタルヘルスの改善と職場環境の向上
スポーツや運動は、身体面だけでなく精神面の健康にも大きな効果があります。
運動によってストレスホルモンが減少し、気分を安定させる効果があるため、ストレス軽減やメンタルヘルス不調の予防につながります。
特に現代の職場では、精神的ストレスが原因となる休職や離職が大きな課題となっていますが、運動習慣を促進することで、こうしたリスクの低減が期待できます。
また、スポーツイベントやウォーキング企画などを通じて従業員同士の交流が生まれ、コミュニケーションの活性化にもつながります。
職場の人間関係が良好になることで、働きやすい職場環境が形成され、組織全体の活性化にも寄与します。
健康経営においては、身体的健康だけでなく、心理的安全性の確保も重要な要素であり、スポーツ推進はその有効な手段の一つです。
採用力の向上と人材確保
スポーツエールカンパニーに認定されることで、健康経営に積極的に取り組む企業として対外的に評価されます。
近年は、求職者が企業を選ぶ際に、給与や待遇だけでなく、働きやすさや健康への配慮を重視する傾向が強まっています。
特に若年層や優秀な人材ほど、長期的に安心して働ける企業を重視する傾向があるため、健康経営に取り組んでいる企業は採用活動において有利になります。
スポーツエールカンパニーの認定は、企業が従業員の健康を大切にしている証明となり、企業の魅力向上につながります。
結果として、採用競争力の強化や優秀な人材の確保に寄与するでしょう。
企業ブランドと社会的信頼性の向上
スポーツエールカンパニーの認定企業は、公式に公表されるため、社会的信頼性の向上につながります。
健康経営に積極的に取り組む企業は、従業員を大切にする企業として評価され、取引先や顧客からの信頼も高まります。
また、ESG(環境・社会・ガバナンス)経営や人的資本経営の観点からも、従業員の健康に配慮する企業は高く評価される傾向があります。
企業価値の向上は、企業の持続的成長において重要な要素であり、スポーツ推進の取り組みはその基盤となります。
対外的な企業イメージの向上は、採用、営業、広報など、さまざまな分野でプラスの効果をもたらします。
具体的な取り組み事例

スポーツエールカンパニーの認定企業の取り組み事例は、インターネット上で公表されています。
公表情報によりますと、認定企業が実際に行っている取り組みは、特別な設備が必要なものばかりではなく、日常業務の延長線上で無理なく実施できるものが多いという傾向が見られました。
※力仕事など、業務として体を動かすことは、認定の対象外です。
公表情報をもとに、多くの企業で導入されている代表的な取り組みを、次の通り、紹介します。
- ラジオ体操
- ウォーキング
- スポーツジムの利用補助
- 社内クラブ活動・サークル活動の支援
- 社内スポーツイベントの開催
詳しく見ていきます。
ラジオ体操

スポーツエールカンパニーの取り組みの中でも、特に多くの企業で導入されているのがラジオ体操です。
始業前などに実施することで、短時間で効率的に身体を動かすことができます。
ラジオ体操は、全身の筋肉や関節をバランスよく動かすように構成されており、血流改善、柔軟性向上、ケガ予防などの効果が期待できます。
特にデスクワーク中心の職場では、長時間同じ姿勢による肩こりや腰痛の予防に効果的です。
また、ラジオ体操以外のストレッチや体操を行っているという企業も見られました。
当記事執筆者は、1級ラジオ体操指導士で、ラジオ体操の指導で、企業に伺うことがあります。
複数の企業担当者からお話を聞いていると、始業前に、任意でラジオ体操を実施しているという企業が多くありました。
一方で、安全管理の一環で、全従業員で、必ず、ラジオ体操を行うという企業も存在します。
正しいラジオ体操の実施は、健康効果を高めますので、ぜひ、正しい形でラジオ体操を実施していただけるとうれしく思います。
ウォーキング

ウォーキング施策も、多くの企業で導入されている代表的な取り組みです。
従業員に歩数計やスマートフォンアプリを活用してもらい、一定期間の歩数を競う「歩数チャレンジ」などを実施している企業もあります。
例えば、
- 1日8,000歩を目標にする
- 部署ごとに歩数を競う
- 目標達成者にインセンティブを付与する
といった形で、楽しみながら運動習慣を身につけることができます。
ウォーキングは身体への負担が少なく、年齢や体力に関係なく誰でも取り組めるため、多くの人が参加できるのが特徴です。
通勤時に一駅分歩くなど、日常生活の中で自然に取り入れられる点も評価されています。
スポーツジムの利用補助

従業員の運動習慣を支援するために、スポーツジムの利用費用を補助する企業も増えています。
例えば、
- ジムの月会費を一部補助する
- 法人契約で割引価格で利用できるようにする
- 利用回数に応じて補助を行う
といった制度を導入している企業が見られます。
経済的な負担を軽減することで、運動を始めるきっかけを作ることができます。
また、福利厚生の充実にもつながり、従業員満足度の向上にも寄与します。
社内クラブ活動・サークル活動の支援

スポーツ系の社内クラブ・サークル活動を支援する企業も多くあります。
企業が活動費を補助したり、活動場所を提供したりすることで、従業員が継続的にスポーツに取り組みやすい環境を整備しています。
こうした活動は、健康増進だけでなく、職場のコミュニケーション向上にも貢献するでしょう。
社内スポーツイベントの開催

社内運動会やスポーツ大会などのイベントを開催する企業も多くあります。
これらのイベントは、運動習慣の促進だけでなく、従業員同士の交流を深める効果があります。部署を超えたコミュニケーションが生まれることで、職場の雰囲気改善にもつながります。
チームで参加する形式にすることで、組織の一体感の向上も期待できます。

誰でも無理なく参加できて、継続しやすい取り組みを行っている企業が多くありました。
最後に

スポーツエールカンパニーに認定されると、従業員の健康増進と企業価値向上の両方に貢献することができます。
ラジオ体操やストレッチ、ウォーキングといった身近な取り組みであっても、組織として継続的に実施することで、従業員の健康改善や生産性向上、職場環境の活性化といった大きな効果が期待できます。
特に健康経営の観点からは、従業員の健康は重要な経営資源の一つであり、その維持・向上に取り組むことは、離職率の低下や人材定着、企業イメージの向上など、企業の持続的成長にもつながります。
スポーツエールカンパニーの認定は、こうした健康経営の取り組みを対外的に示す指標にもなり、企業の信頼性向上にもつながります。
今後、人的資本経営の重要性がさらに高まる中で、スポーツを通じた健康づくりは、企業の競争力を高める重要な取り組みとなると思われます。
スポーツエールカンパニーの認定制度は、従業員の健康と企業の未来の双方を支えるうえで、役に立つ制度です。
