
家でもない、職場や学校でもない、第三の居場所があったらいいのに・・・。
そんな感覚を抱いたことはないでしょうか。
カフェで一息つく時間や、常連の顔が集まる喫茶店、気軽に立ち寄れる地域のコミュニティスペースなどは、私たちの日常にささやかな安心感やつながりをもたらしてくれます。
こうした場所を説明する言葉として、「サードプレイス(Third Place)」があります。
サードプレイスとは、自宅(ファーストプレイス)や職場・学校(セカンドプレイス)とは異なる、気負わずに過ごせる第三の場所を指します。
この考え方を提唱したのは、アメリカの社会学者であるレイ・オルデンバーグです。
ここでは、オルデンバーグの訳書『サードプレイス コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』(忠平美幸訳)に基づきながら、サードプレイスとは何かを簡単に整理して、その特徴や私たちの身近にある具体例について解説していきます。
サードプレイスとは

サードプレイスとは、自宅である「ファーストプレイス」や、職場(・学校)といった「セカンドプレイス」とは別に存在する、第三の居場所を指します。
ファーストプレイスは家族と過ごす私的な空間、セカンドプレイスは役割や責任を伴う公的な空間ですが、どちらも知らず知らずのうちに緊張や負担を生みやすい側面があります。
それに対してサードプレイスは、肩書きや立場から離れ、気軽に立ち寄れる場所です。
そこでは人々が対等な関係で交流し、会話や時間の共有を通じて心の余裕やつながりを得ることができます。
オルデンバーグは、このような場所が個人の幸福感だけでなく、地域社会の活力や民主的な文化を支える重要な役割を果たすと指摘しています。

家でも、職場でもない、心がほどける、もうひとつの居場所こそが、サードプレイスです。
サードプレイスの8つの特徴

サードプレイスには、人が自然と集い、無理なくつながるための共通した特徴があります。
そのサードプレイスについて、オルデンバーグは、下記の通り、8つの特徴があると述べていますので、順に、解説していきます。
- 中立の領域で
例えば、家庭内で、夫婦がずっと一緒に暮らしていたら、どうでしょうか。お互いが束縛されているような感じで、嫌だと思います。そんなときこそ、友達付き合いや多様な交流が必要でしょう。 - サードプレイスは人を平等にするもの
地位や身分、(今風に言うと)社会階級に関わりなく、多くの人々が交わることのできる場所がサードプレイスです。 - 会話がおもな活動
一番重要な点です。オルデンバーグは、酒類が提供される居酒屋などを分析対象としていますが、サードプレイスは、飲むよりしゃべるというのが原則です。酔いつぶれるといったことは起こりません。 - 利用しやすさと便宜
いつでも訪れることができること、住居の近くにあるということが強調されています。なお、郊外型生活のアメリカにおいて、そのような場所はほとんどないことを、オルデンバーグは何度も指摘しています。 - 常連
例えば、居酒屋において隣客と間をあけて座る光景。恐らく、沈黙した嫌な空気が流れています。これは、サードプレイスではありません。サードプレイスは常連客の会話によって生み出されます。 - 目立たない場所
店の外観を見てください。購買意欲を高める色を使った外観のお店は、サードプレイスになり得ません。 - その雰囲気には遊び心がある
会合のような、真面目腐った場所ではありません。サードプレイスは、遊び場という感じです。 - もう一つのわが家
サードプレイスは公的な場所ですが、家(ファーストプレイス、私的な場所)と同じくらい、もしくはそれ以上の居心地の良さを提供してくれます。
サードプレイスのメリット

ここからは、サードプレイスのメリットについて、述べていきます。
ここでは、
- 心理的・精神的なメリット
- 人間関係・コミュニケーション面のメリット
- 社会・地域にとってのメリット
- 日常生活・ライフバランスへのメリット
に分けて、説明していきましょう。
心理的・精神的なメリット
サードプレイスは、家庭や職場・学校とは異なり、役割や期待から一時的に解放される場所です。
ここでは「○○である自分」を意識せずに過ごせるため、気持ちがリセットされやすく、ストレスの軽減や心の安定につながります。
定期的に通える場所があること自体が、日常の安心感を支える要素になります。
人間関係・コミュニケーション面のメリット
サードプレイスでは、年齢や職業、立場を超えた緩やかなつながりが生まれやすくなります。
深い関係を求められない一方で、顔見知りとの軽い会話が継続的に発生するため、孤立感を和らげる効果があります。
オルデンバーグが重視した「会話を中心とした交流」が自然に育まれる点も大きな特徴です。
社会・地域にとってのメリット
地域にサードプレイスが存在すると、人と人とがゆるやかにつながり、地域全体の結束力が高まります。
特定の組織や利害に縛られない交流は、相互理解を促し、地域コミュニティの健全性を支えます。
これはオルデンバーグが、サードプレイスを民主的な社会の基盤と位置づけた理由の一つでもあります。
日常生活・ライフバランスへのメリット
サードプレイスは、生活に「余白」を生み出します。
仕事や学業だけに偏らない時間の使い方が可能になり、生活リズムや気持ちの切り替えがしやすくなります。
結果として、日常の満足度が高まり、無理なく継続できる豊かな生活につながります。
この場所はサードプレイス?具体例に基づき解説
それでは、具体例をもとに、サードプレイスであるかどうか、確認していきます。
具体例として、家庭(ファーストプレイス)でも職場(セカンドプレイス)でもない、以下の場所について取り上げます。
- ショッピングモール
- 居酒屋
- スターバックス
- ラジオ体操会
これらの場所は、サードプレイスといえるのか・・・。詳しく見ていきましょう。
ショッピングモール

ショッピングモールはサードプレイスではありません。
オルデンバーグは、「非場所」(non-place)とまでいっています。
かつて場所があったところに、今わたしたちが見出すのは<非場所>だ。本物の場所では、ヒトが人間である。彼または彼女は、ユニークな個性をもった一個の人間だ。非場所では、個性など意味がなく、人はたんなる顧客や買い物客、クライアントや患者、席に座る身体、請求書の宛先、駐車する車に過ぎない。非場所では、人は一個の人間であることも、そうなることもできない。個性は意味をなさないばかりか、妨げにもなるからだ。
『サードプレイス コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』p. 327
当記事執筆者は、「非場所」という表現が、心に深く刺さりました。
アメリカでは、たいてい郊外に家があります。周りには、お店はありません。
それ故、買い物に行くときは、車でしか行くことのできないショッピングモールが目的地です。
ショッピングモールは、同じような境遇の人々が多数集まります。群衆と化します。
したがって、もちろん、固有名詞の関係性ではないのです。
これについては、日本に通ずるところもあります。
日本でも、ベッドタウン開発が進み、郊外で生活を営む人が増えました。
郊外型のショッピングモールも、近年になって急激に増えてきました。
一方で、人とのつながりを重視する地元商店は衰退していくばかりです。日本でも、心のよりどころを「消費生活」に移りつつあるのです。
日本のショッピングモールも、残念ながら、サードプレイスであるとはいえません。
居酒屋

居酒屋がサードプレイスであるかは、難しい問題です。
まずは、オルデンバーグの考え方を確認します。
飲み屋の良し悪しを判断するのに舌より耳を使うとき、居酒屋は三つのタイプに分かれるが、すべての根底にあるのは友情関係の幅だ。わたしはこの三つのタイプを「致命的な居酒屋」「BYOFの居酒屋」「サードプレイスの居酒屋」と呼ぶ。
『サードプレイス コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』p. 279
居酒屋の3つのタイプについても、下記の通り、簡単に解説します。
- 致命的な居酒屋
たいていショッピングモールや中心街にあります。中では沈黙した空気が張り詰めています。 - BYOF(Bring Your Own Friends)の居酒屋
確かに、会話はありますが、「BYOF」の意味を見てわかるように、あくまで各グループ内で会話が弾むのです。サードプレイスではありません。 - サードプレイスの居酒屋
言うまでもなく、客同士・常連同士の会話が見られます。席の移動も見られます。上で記した、サードプレイスの特徴にも当てはまるでしょう。

友情関係の幅は、「致命的な居酒屋」が一番小さく、「サードプレイスの居酒屋」が一番大きいということになります。
それでは、日本の居酒屋について考えていきましょう。
まず、日本の居酒屋の多くは、家の近くではなく職場の近くに位置します。
仕事終わりに、職場近くの居酒屋に寄ってから、帰宅するという方が多いのではないでしょうか。
オルデンバーグが述べていることと異なっていますが、これはアメリカと日本の文化の違いとして捉えてよいでしょう。
基本的には、サードプレイスの特徴は踏襲してよいと思います。
皆さまが行っている居酒屋について考えていただければと思いますが、日本では、「BYOFの居酒屋」が多いといえます。
一方で、「サードプレイスの居酒屋」も、一部ではありますが、存在しています。
日本の居酒屋は、一部については、サードプレイスといえます。
スターバックス(スタバ)

次に、日本のスターバックスについて考えます。
スターバックスについては、サードプレイスであるという議論は多く見られます。
一方で、サードプレイスの要素はあるものの、完全なサードプレイスとは言い難いというのが、当記事執筆者の立場となります。
オルデンバーグの著書では、古典的なコーヒーハウスがサードプレイスの例として挙げられていますが、喫茶店やカフェにおいて重要な点は、「くつろげる場」と「社交の場」の2つの観点だということです。
この2つがあれば、喫茶店やカフェは自然とサードプレイスになりうると考えることができます。
「くつろげる場」と「社交の場」という観点から、日本のスターバックスについて深掘りしていきます
「くつろげる場」「社交の場」という観点から、日本のスターバックスについて見てきました。
確かに、日本のスターバックスは、「くつろげる場」にはなっていますが、必ずしも、「社交の場」にはなっていません。
スターバックスはサードプレイスといえる面も持ち合わせていますが、サードプレイスと断言することは不可能です。
地域のラジオ体操会

最後に、恐縮ではございますが、当記事執筆者が運営している場所について取り上げます。
それは、地域の公園や広場でよく見かけるラジオ体操会です。
ラジオ体操会は、前述した、サードプレイスの特徴など、オルデンバーグの議論に照らすと「サードプレイスになり得る存在」だといえます。
参加は基本的に自由で強制力がなく、年齢・職業・肩書に関係なく同じ体操を行うため、社会的地位は相対化されやすいと言えます。
また、毎朝同じ時間・同じ場所に集まることで自然と常連が生まれ、顔見知り同士の挨拶や軽い雑談が積み重なっていきます。
日常的で、かつ、特別すぎない交流の場という点では、ラジオ体操会は非常に近い存在です。
一方で、
- ラジオ体操会が単なる運動の場にとどまり、交流がほとんど生まれない場合
- 役員・世話人の権限が強く上下関係が固定化している場合
- 参加が半ば義務化されている場合
については、ラジオ体操会はサードプレイスとはいえないでしょう。
当記事執筆者は、上記のようにならぬよう、注意しながら、ラジオ体操会を運営しております。
地域のラジオ体操会は、いくつかの条件を満たす場合に限り、サードプレイスです。
まとめ
サードプレイスとは、自宅(ファーストプレイス)や職場・学校(セカンドプレイス)とは異なる、立場や役割から解放されて人とつながれる「第三の居場所」です。
この概念を提唱した社会学者のレイ・オルデンバーグは、サードプレイスが個人の心の安定だけでなく、地域コミュニティや民主的な社会を支える重要な基盤であると指摘しました。
忙しさや孤立が問題になりやすい現代だからこそ、身近なサードプレイスの価値を見直すことには大きな意味があります。
より深く理解したい方は、オルデンバーグの代表的著書(訳書)『サードプレイス コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』を手に取り、サードプレイスが社会にもたらす役割を改めて確認してみるのをおすすめします。
具体例も多く、一般の人でも、スムーズに読み進めることのできる本ですので、ぜひ、一度、手に取ってみてください。
