近年、健康志向の高まりとともに「ピラティス」という言葉を耳にする機会が非常に多くなっています。
芸能人やアスリートが日常的にトレーニングに取り入れていることでも話題となり、スタジオやオンラインレッスンの数も年々増加しており、幅広い層から注目を集めています。
日本では、今、ピラティスが非常に流行っていて、第3次ブームを迎えているともいわれています。
ピラティスのスタジオに通い始めたいという方も多いでしょう。
しかし、一方で

ピラティスは、結局、何をするものなのか?ヨガと似ているように見えるがどう違うのか?
といった疑問を持つ人も少なくないでしょう。
ピラティスを始める前に、そもそもピラティスとは何かということについて、理解することは非常に大切です。
そこで、ここでは、ピラティスに関する基本的な事柄を網羅的に解説していきます。
ピラティスとは何か

ピラティスとは、体幹の筋肉、特にインナーマッスルを強化しながら、正しい姿勢や動作を身につけるエクササイズメソッドです。
特に、「身体の機能改善」や「効率的な動きの習得」を目的としています。
日常生活の中で私たちが気づかぬうちに行っている動作、例えば、
- 立つ
- 歩く
- 座る
- 物を持ち上げる
といった基本的な所作においても、身体の使い方が悪ければ腰痛や肩こりなどの不調が生じます。
ピラティスは、こうした「誤った動作習慣」を修正し、無理のない効率的な身体の使い方を再教育していく点に大きな意味があります。
また、ピラティスはリハビリテーションとしても発展してきた背景があり、運動能力の高いアスリートから高齢者まで幅広い年齢層が安全に行える点も特徴です。
マットの上で自重を使うシンプルな動きだけでも十分効果がありますが、専用のリフォーマーを使えば可動域をさらに広げ、弱点を補いながらトレーニングを行うことが可能になります。
※後述しますが、前者をマットピラティス、後者をマシンピラティスといいます。
ピラティスの歴史と誕生の背景

ピラティスは20世紀初頭、ドイツ人のジョセフ・H・ピラティス(Joseph Hubertus Pilates, 1883–1967)によって考案されました。
幼少期、彼は病弱でした。
そのため、彼は「心と身体の鍛錬によって弱さを克服できる」と信じ、ヨガ、ボクシング、体操、レスリングなど多様な身体技法を学び、それらを組み合わせて独自のトレーニング法を模索していきました。
第一次世界大戦中、彼は捕虜収容所に収容されましたが、その中で仲間の体力を回復させるためのエクササイズを指導しました。
特に、負傷兵のリハビリのため、ベッドにスプリングを取り付けて身体をサポートする装置を考案しました。
これが後の「リフォーマー」と呼ばれるピラティスマシンの原型となります。
第一次世界大戦後、彼はドイツに戻りますが、その後は、アメリカへ移住。ニューヨークでスタジオを開設し、ダンサーや俳優、アスリートたちに支持され、メソッドは急速に広まりました。
特に、バレエダンサーがケガの予防やリハビリに活用したことから、芸術分野との結びつきも深まっていきました。
彼の哲学は「心と身体は一体である」という考えに基づき、身体だけでなく精神的な集中力や呼吸の重要性も強調していました。
その意味でピラティスは、単なるエクササイズという枠を超えた「心身統合メソッド」として、今なお受け継がれています。

ピラティスという名称の由来は、ピラティスさんという人名にあるということになります。
ピラティスの6つの基本原則

ピラティスには、ジョセフ・ピラティスが提唱した基本原則が存在します。それは以下の6つです。
- 呼吸(Breathing)
深くコントロールされた呼吸を通じて、体幹を安定させ、集中力を高めます。胸式呼吸をベースに、肋骨を横に広げるように吸い、吐くときにお腹を引き締める呼吸が特徴です。 - 集中(Concentration)
一つひとつの動作に意識を集中させ、身体の細部にまで注意を払うことが求められます。集中することで効果が最大化され、怪我の防止にもつながります。 - コントロール(Control)
身体の動きを自分の意思で完全にコントロールすることを大切にします。反動や慣性ではなく、筋肉の働きによって動作を丁寧に行うことが特徴です。 - 正確性(Precision)
動きを正しいフォームで行うことに重きを置きます。数をこなすよりも、一回一回を正確に行うことが効果につながります。 - 中心/センタリング(Centering)
身体の中心、いわゆるコア(腹部、腰回り、背中の深層筋群)を常に意識し、そこから力を生み出すことが基本です。 - 流れ(flow)
動きは止めずにスムーズにつなげることが重要です。流れるような動作によって、全身の調和を養います。
これらの原則を守ることで、身体と心の調和が生まれ、エクササイズの効果を高めることができます。
ピラティスのスタジオでは、実践中心となりますので、こうしたことを教えられることはありませんが、ピラティスを始める前にこれらの原則を頭に入れておくと、より大きな効果が期待できます。
せっかくですので、覚えていただければと思います。
ピラティスの種類
ピラティスには大きく分けて「マットピラティス」と「マシンピラティス」の2種類があります。それぞれの特徴やメリットを理解することで、自分に合った実践方法を選ぶことができます。
マットピラティス

マットを用いて自重を活用し、シンプルな動きで身体を鍛えるスタイルです。
ヨガマットと似た環境で始められるため、初心者が取り組みやすいという利点があります。
基本的な姿勢保持や呼吸法を学ぶのに適しており、自宅でも容易に続けられることから、現在最も普及している形態といえます。
一方で、マットピラティスについて・・・

自重のみを使うため、負荷が軽く効果が出にくいのでは・・・?
と思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、呼吸や体幹の意識を正しく行えば、マットピラティスだけでも十分に効果は得られます。
特に初心者や運動不足の方にとっては最適な入口と言えます。
マシンピラティス

専用の器具を用いる方法で、代表的なものは「リフォーマー」と呼ばれるベッド型の装置です。
スプリングやロープ、滑車を利用することで負荷や補助を調整でき、筋力が弱い部分をサポートしながら効率よくトレーニングできます。
マシンを使うと可動域を広げやすく、関節に負担をかけずに動作を行えるため、リハビリや姿勢改善に特に有効です。
また、上級者にとっては強度を高めることで筋力向上や体幹強化を狙うことも可能です。
一方で、マシンピラティスについて・・・

専用マシンを置くスペースが自宅にはない!高額な費用負担も難しい!
と感じる人もいるでしょう。
しかし、近年は「マシンピラティス専門スタジオ」がかなり増えていて、マシンピラティスを実践しやすい環境も整いつつあります。
ピラティスの効果

ピラティスはその特徴から、多方面にわたる効果を期待できます。ここでは、下記の通り、代表的なものを紹介します。
- 姿勢の改善
- 体幹の強化
- 柔軟性の向上
- ストレス軽減
- リハビリテーション効果
- 美容効果
詳しく見ていきましょう。
姿勢の改善
現代社会では、長時間のデスクワークやスマートフォンの使用によって、多くの人が猫背や巻き肩、反り腰といった姿勢不良に悩まされています。
これらの歪みは、肩こりや腰痛など慢性的な不調の原因にもなりかねません。
ピラティスでは、体幹を意識しながら背骨を一つひとつ丁寧に動かし、骨格本来の自然なカーブ(S字ライン)を取り戻すことを重視します。
継続することで、美しい姿勢が身につき、日常生活でも疲れにくい身体へとつながっていきます。
体幹の強化
ピラティスの代名詞とも言えるのが「体幹トレーニング」です。
体幹とは単に腹筋だけでなく、腹横筋・多裂筋・横隔膜・骨盤底筋群といった深層筋(インターマッスル)も含まれていて、身体を支える土台として重要な役割を担っています。
ピラティスではこれらの筋肉を意識的に使うことで、見た目以上に内側からの安定性を高めます。
その結果、立つ・歩く・座るといった日常動作がスムーズになり、さらにスポーツパフォーマンスの向上やケガの予防にも大きな効果を発揮します。
アスリートが体幹トレーニングとしてピラティスを取り入れることもあります。
ゴルフではスイングの安定性、テニスや野球では瞬発的な動きの効率化、ダンスやバレエではしなやかで美しい動作に直結します。
ピラティスは特定の筋肉を偏って鍛えるのではなく、全身のバランスを重視するため、どんな競技にも応用しやすいのが利点です。
世界的にもプロアスリートやトップダンサーが日常的に実践しており、その効果が裏付けられています。
柔軟性の向上
ヨガのように極端な柔軟性を追求するわけではありませんが、ピラティスの動きは筋肉や関節を無理なく広い可動域で動かすため、自然と柔軟性が高まります。
硬くなりがちな股関節や肩甲骨の可動域が改善されることで、普段の姿勢や歩き方も美しくなり、腰痛や肩こりといった不調を未然に防ぐことができます。
年齢を重ねても「しなやかに動ける身体」を保てるのは、大きな魅力のひとつです。
ストレス軽減
ピラティスは呼吸に意識を向けながら行うため、自律神経のバランスを整えやすい点でも注目されています。
特に、胸式呼吸をベースとするため、交感神経と副交感神経の切り替えがスムーズになり、集中力を高めながらもリラックス感を味わえます。
レッスン後には頭がスッキリしている感覚を得やすく、心身のリフレッシュにつながります。ストレス社会で生きる現代人にとって、精神面へのポジティブな効果も見逃せません。
リハビリテーション
ピラティスは、もともと第一次世界大戦中に負傷兵のリハビリのために考案された背景があります。
そのため「無理をしない」「正しいフォームで安全に動かす」という理念が根底にあり、腰痛・膝の不調・肩のこわばりなどを持つ人にも取り入れやすいのが特徴です。
特に、専用マシンを使うことで、関節や筋肉に過度な負担をかけずにトレーニングが可能です。
理学療法士や医療関係者がリハビリの一環として活用するケースもあり、その有効性が認められています。
美容効果
姿勢が整うと、外見の印象は大きく変わります。
猫背が改善されて胸が開くことで、首が長く見え、肩やデコルテがすっきりとした印象になります。
また、体幹が引き締まることでウエストラインが自然に細くなり、下腹のぽっこり感も解消されやすくなります。
さらに、血流や代謝が促進されることで、むくみの軽減や肌のツヤ感アップにも寄与すると考えられています。
健康と美容の両面で効果を実感できるのは、特に女性に人気の理由です。
ヨガとの違い

ピラティスとヨガは、見た目のポーズやマットを使う点で似ているため混同されがちですが、その本質には明確な違いがあります。
ピラティスとヨガの違いについて、以下、表でまとめてみましたので、参考にしてください。
ピラティス | ヨガ | |
---|---|---|
起源・歴史 | 20世紀初頭、ドイツ人ジョセフ・ピラティスがリハビリ目的で考案 | 約4000年以上前のインドで誕生。宗教的・精神的修行から発展 |
主な目的 | 体幹強化、姿勢改善、リハビリ、効率的な身体の使い方を習得 | 心身の調和、瞑想、精神的安定、内面の成長 |
呼吸法 | 胸式呼吸(肋骨を広げるように呼吸)を重視し、集中力・安定性を高める | 腹式呼吸や完全呼吸(プラーナーヤーマ)を取り入れ、リラックスや瞑想を促す |
動きの特徴 | 小さな動作を繰り返し、体幹や深層筋を意識的に鍛える。リフォーマーなどマシン使用もあり | ポーズ(アーサナ)を保持しながら柔軟性と心の静けさを養う。流れるような動きの流派もある |
精神性 | 比較的低めだが、存在する。ただ、どちらかというと身体の機能改善に重点を置く | 強い。瞑想・哲学と結びつき、精神修養の要素も大きい |
実践スタイル | マット上、または専用マシン(リフォーマーなど)を使用 | マット上で行い、ポーズや呼吸法、瞑想を組み合わせる |
向いている人 | 姿勢改善や体幹強化、腰痛予防、スポーツパフォーマンスを高めたい人 | リラックス、ストレス軽減、心身の調和や柔軟性を重視したい人 |
このように、両者は似ているようで、実は、アプローチが異なります。目的やライフスタイルに応じて選ぶことが大切です。
もちろん、両方を取り入れてバランス良く実践するのも有効であり、相互補完的に活用することで心身ともに充実した健康を得られるはずです。
現代社会におけるピラティスの役割

現代人はデスクワークやスマホ使用により、慢性的な肩こり・腰痛を抱える人が増加しています。
運動不足やメンタルストレスも深刻化する中、ピラティスは「心身のバランスを整える手段」として重要性は増しています。
近年は、「マシンピラティス専門スタジオ」の拡大や、オンラインレッスンの普及により、さらに身近な存在になっています。
また、AIやウェアラブルデバイスを活用して姿勢を解析し、個人に最適化されたプログラムを提案するサービスも登場しています。
医療分野でも注目されており、理学療法士がリハビリの一環として取り入れるケースが増加しています

今後は、高齢化社会を迎える中で、健康寿命を延ばす手段としての役割も期待されています。
まとめ
ピラティスは20世紀に誕生した比較的新しいエクササイズでありながら、ヨガに通じる精神性と、近代的な身体機能改善のアプローチを融合した独自のメソッドです。
姿勢の改善、体幹強化、柔軟性向上、ストレス軽減、美容効果、リハビリ効果と、多方面にわたるメリットがあります。
ヨガとの大きな違いは「目的」と「呼吸法」にあり、ピラティスはより身体的・機能的な改善にフォーカスしています。
初心者から上級者、高齢者やアスリートまで幅広く取り組める柔軟性を持ち、現代社会においては心身の健康を支える重要な存在となっています。
これからピラティスを始めたい人は、まずはマットピラティスから入り、余裕があればスタジオでマシンを体験するとよいでしょう。
日々の生活に取り入れることで、単なる運動を超えた「身体教育」として、自分自身の可能性を広げてくれるでしょう。
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