むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは山へ芝刈りへ、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
こんなフレーズから始まる昔話といえば、、、?そうです。桃太郎です。ほとんどの人が知っていることでしょう。
では、桃太郎がラジオ体操をする場面があるといわれると、いかがでしょうか。
そんな場面はないだろ!何を言っているんだ!
ほとんどの方がそのように言うことでしょう。確かに、その通りです。
しかし、実を言うと、とある博覧会の展示にて、桃太郎がラジオ体操をする場面が描かれていたというのです。ラジオ体操に関する文献を読んで、私はその事実を把握しました。
ということで、今回は、桃太郎とラジオ体操について述べていきます。
桃太郎がラジオ体操をするとはどういうことなのか、また、桃太郎とラジオ体操の関係はいかなるものなのか、ということが本記事のテーマです。
この記事を見てわかること
- 桃太郎がラジオ体操をする場面はどこで描かれたのか
- 桃太郎がラジオ体操をする背景にあるものとは
- 桃太郎とラジオ体操の意外な共通点
本編に入る前に、ここで、クイズを出しておきましょう。
クイズ
とある博覧会における昔話・桃太郎の展示。
その展示の中で桃太郎がラジオ体操をする場面は、次のうちどれでしょうか。
- 桃太郎が桃から生まれた直後
- 桃太郎がおじいさん・おばあさんと生活を共にしているとき
- 桃太郎(ならびに猿・鳥・犬)が鬼と戦う直前
記事のどこかで答えを書きますので、最後までご覧いただけると幸いです。
桃太郎がラジオ体操をする?
桃太郎がラジオ体操をするとは・・・、一体どういうことでしょうか。
桃太郎がラジオ体操をする様子は、1933年(昭和8年)3月17日から5月31日までの76日間にわたって開催された万国婦人子供博覧会で見ることができました。
万国婦人子供博覧会は、万国という名前の通り、国際親善を目的に開催されました。また、婦人や子供の常識・情操の涵養、消費経済の合理化も開催の目的となされていました。
※詳細は別の文献をご覧ください。
ラジオ体操の放送が始まったのが1928年(昭和3)年ですので、それから、数年後の出来事でした。詳しく見ていきましょう。
万国婦人子供博覧会の展示にて
万国婦人子供博覧会はいくつかの会場に分けられ、それぞれで様々な展示が行われました。桃太郎がラジオ体操をする様子が展示で見られたのは、JOAK館というところでした。
関東周辺でNHKラジオをよく聞いている方ならば、「JOAK NHK東京 第1放送です」と聞くこともあるかと思います(NHKR1の場合)。
JOAK館の「JOAK」は、そのJOAKとほぼ同意です。JOAKは日本放送協会の東京中央放送局(現在のNHK東京・放送センター)を指します。
ラジオ体操は、放送当初から、日本放送協会が放送しています。したがって、「JOAK館」で桃太郎がラジオ体操をするような展示を実施することは決して不思議なことではないことがわかるかと思います。
桃太郎がラジオ体操をする場面(クイズの答え)
では、その展示はどのようなものだったのか。また、どの場面で、桃太郎がラジオ体操を行ったのか。
まずは、冒頭で出題したクイズを再確認しておきましょう。
クイズ
万国婦人子供博覧会のJOAK館における昔話・桃太郎の展示。
その展示の中で桃太郎がラジオ体操をする場面は、次のうちどれでしょうか。
- 桃太郎が桃から生まれた直後
- 桃太郎がおじいさん・おばあさんと生活を共にしているとき
- 桃太郎(ならびに猿・鳥・犬)が鬼と戦う直前
先のクイズの答えを示しておきます。正解は①桃太郎が桃から生まれた直後でした。
JOAK館では桃太郎の物語を4つの場面にわけて展示がなされました。全て、無線で操縦をしていたとのこと。桃太郎がラジオ体操をしたのは、1つ目の場面です。
桃から生まれて飛び出してきた桃太郎が、おじいさんとおばあさんの前でいきなりラジオ体操をしたのでした。
クイズの選択肢の中で、おそらく、最も考えにくい場面だったかもしれません。一般的に考えて、人が生まれた直後に体操をする、ひいては、体を動かすことはできないですしね・・・。
ちなみに、2つ目の場面から4つ目の場面は、どんな描写だったのでしょうか。私が読んだ論文(川口, 2008)によると、次の通りということでした。
桃太郎の展示
2つ目の場面:キジ、犬、猿が出てくる。
3つ目の場面:桃太郎一行が日支事件に奮闘する。
4つ目の場面:一行が凱旋をするのを満州人のロボットが説明する。
無線で操縦をされていて、様々な演出が凝らされていたようです。上記よりわかりますが、普通の桃太郎ではないことがわかります。
万国婦人子供博覧会は、1933年(昭和8年)3月から4月にかけて開かれました。日本はまさに同じ時期に、満州事変(1931年)に伴うリットン調査団の調査結果を不服として国際連盟を脱退しています。
そうした時代背景が、桃太郎の展示に反映されています。
当時は初代ラジオ体操
桃太郎が行ったラジオ体操。背伸びの運動から始まる三代目(現行)のラジオ体操ではありません。
実は、初代ラジオ体操になります。初代ラジオ体操第1は1928年(昭和3年)11月より放送は始まりました。また、初代ラジオ体操第2は1932年(昭和7年)7月より放送が始まっています。戦後、1946年(昭和21年)4月まで放送がなされていました。
なお、当記事の内容とはあまり関係ありませんが、初代ラジオ体操第3は1939年(昭和14年)12月に放送が始まり、1945年(昭和20年)12月で放送が終了しています。
一方で、三代目(現行)のラジオ体操は、第1が1951年(昭和26年)5月から、第2が1952年(昭和27年)6月から放送が始まっています。
したがって、JOAK館での展示で桃太郎が行ったのは初代ラジオ体操です。当時、メジャーだった初代ラジオ体操第1(国民保健体操)だったのではないかと考えられます。
桃太郎とラジオ体操の共通するイメージ
では、なぜ、桃太郎がラジオ体操をしていたのか。それは、桃太郎とラジオ体操に共通するイメージがあったからといってよいでしょう。藤原(2005)という論文が詳しいです。
イメージとして、健康とファシズムの2つを挙げておきます。
イメージ①健康
ラジオ体操(初代)は逓信省簡易保険局(現在のかんぽ生命)が策定をしました。簡易保険局は、ラジオ体操により国民が健康になり、死亡率の低下を図ったのでした。このように、ラジオ体操は、国民の健康を意図して策定され、実際に、行われてきました。
簡易保険局からすると、国民が健康になると、保険支払いを遅らせることができるというメリットがありました。
一方の桃太郎。桃太郎も健康と結びつけることができます。
万国婦人子供博覧会が開催される少し前となる1930年、健康優良児の表彰がなされるようになりました。健康優良児とは、心身ともに健康で、体格や学力も優れた児童のことです。
健康優良児の表彰が始まったとき、「日本一の桃太郎を探す」ということで始まったのです。ここでいう桃太郎は健康優良児のことです。
※実際に、ラジオ体操は、当時、体力向上のために学校現場でも採用されていて、多くの子どもたちも実践をしていました。
ラジオ体操と桃太郎は、健康というイメージで共通点を有しているのです。
イメージ②ファシズム
次に、時代背景について考えてみます。
万国婦人子供博覧会が開催された1933年前後の日本における主な出来事を記しました。
年代 | 主な出来事 |
---|---|
1931年 | 柳条湖事件。満州事変。 |
1932年 | 満州国建国宣言。五一・五事件。 |
1933年 | 国際連盟脱退。 |
1934年 | 満州国帝政実施。 |
1937年 | 盧溝橋事件。日中戦争 |
1941年 | 太平洋戦争。 |
ごくごく簡単な年表で恐縮です。ご容赦ください。
万国婦人子供博覧会が開催された1933年(昭和8年)前後は、軍部が台頭してきて、ファシズムの時代となっていきます。
当初、国民の健康を目的に放送されてきたラジオ体操も、ファシズムの体制に合わせて少しずつ変容していきます。すなわち、ラジオ体操は、次第に、心身の鍛錬、愛国心の向上を目的になされるようになっていったのです。とりわけ、日中戦争以後は、ラジオ体操にそうした特徴が色濃く出てきます。
ポイント
余談ですが、日本が孤立化の道を歩み始めるきっかけとなった満州国建国。その満州国でもラジオ体操が広められました。ラジオ体操はファシズムの色に染まっていったといってよいでしょう。
また、1935年3月の満州国皇帝陛下を記念して満州国建国体操というものもつくられました。
では、桃太郎のイメージについても考えていきましょう。昔話・桃太郎では、鬼を倒して、めでたしめでたしという感じで終わります。ポイントは、鬼退治です。
鬼=敵。このように考えるとわかりやすいのではないでしょうか。つまり、鬼は戦争で戦う相手のことです。
万国婦人子供博覧会でのラジオ体操展示では、桃太郎一行が日支事件に奮闘する場面が描かれたようです。つまり、このとき、鬼は支=中国と見たてていたようです。
その後の太平洋戦争などにおいても、敵国を鬼とみなすことができます。
ラジオ体操と桃太郎は、ファシズムというイメージでも共通するのです。
太平洋戦争時、「鬼」であるアメリカ・イギリスを念頭に、「米英撃滅」と叫びながらラジオ体操をする人も存在したようです。
最後に:桃太郎とラジオ体操の関係とは
桃太郎とラジオ体操の関係について、なんとなく、おわかりいただけたでしょうか。非常に興味深い内容だったかと思います。
1933年(昭和8年)に開催された万国婦人子供博覧会のJOAK館での展示で、桃太郎がラジオ体操をする様子を見ることができたということを述べてきました。
そして、桃太郎とラジオ体操は、健康やファシズムという点において共通のイメージがあるということを述べました。
この記事を読んで、ラジオ体操について少しでも知っていただけたら、web担当者としてはこの上なく嬉しいです。今後も、ラジオ体操について様々な情報を発信していきますので、引き続きよろしくお願いします。
注意
この記事を読むと、ラジオ体操について負のイメージを持たれる方が少なくないかと思いますが、実は、非常に優れた体操です。そもそも、現在放送されているラジオ体操は、戦時下に実践されていたものではありませんので、ご安心ください。
大阪・関西万博とラジオ体操
さて、話題を少し変えて、この記事の締めとします。ここまで、万国婦人子供博覧会について触れてきましたが、私たち、一般社団法人ラジーンは、2025年の大阪・関西万博に向けて、「ラジオ体操100万人プロジェクト」を実施しています。
2025年までに、100万人の皆さんといっしょにラジオ体操を行い、心も体も健康になってもらうことを目標に取り組んでいます。
この取り組みは、大阪・関西万博の「TEAM EXPO 2025」プログラム/共創チャレンジに登録されています。
大阪・関西万博に向けて、私たちは、ラジオ体操を通じて心も体も健康な社会をつくっていきますので、お力添えのほどよろしくお願いします。